ウルトラセブンの12話とは



見知らぬ、挿話
 現在刊行されているウルトラマンシリーズについての書籍にはウルトラセブン第12話の記述が欠落している。だが注意深く放映リスト等を見れば、それは確かに存在する、いや、存在したことが分かる。ウルトラセブン放映第12話(制作第9話)「遊星より愛をこめて(脚本題名:遊星より愛を)」、脚本:佐々木守、監督:実相時昭雄、特殊技術:大木 淳、登場怪獣:スペル星人、という作品は確かに昭和42年12月17日の本放送でON AIRされたのだ。しかし前述のごとく、この第12話はLDへの収録はもちろん、書籍にも内容の記述が無い。
 わずかに放映リストと共に以下の様な一文があるだけだ。
  曰く「12話は現在公開されていません。」
  曰く「第12話は現在諸事情により放映・媒体掲載されていません。」
  曰く「12話は欠番です。」
まさに「幻の12話」なのだ。

人の作りし物語
 第12話の概要は以下の通りである。
 若い女性が怪死する事件が相次いだ。被害者はいずれも血液中から白血球が皆無になっていく。そして被害者が身につけていた時計は地球上に存在し得ない金属で作られ、しかも人間の血液から白血球のみを微細な結晶とし取り出す装置が仕掛けられていた。
 ウルトラ警備隊のアンヌ隊員は休暇中に高校時代の友人早苗と会う。だが基地に戻ったアンヌは問題の時計が早苗が身につけたものと同じであることに気付く。その時計を早苗にプレゼントした青年、佐竹に会うが、佐竹は時計を購入した場所を答えられなかった。そこへ早苗の弟、伸一が学校で倒れたという連絡が入った。伸一は姉の時計を内緒で身につけており、軽い脳貧血に襲われたのだ。アンヌは必死で時計を奪い返そうとする佐竹に不信を抱き、ダンとともに早苗と佐竹を尾行し、佐竹が早苗に気付かれぬ様に腕時計をすり替える所を目撃した。
 早苗と別れた佐竹は洋館で仲間と合流する。仲間の青年達は佐竹と同様に若い女生と交際して腕時計で血液を採取していたのだ。そこで彼らは伸一の血液が女性のものより高純度であることを発見し「作戦」を変えた。
 翌朝の朝刊に「ロケットを描いて宇宙時計をもらおう」という広告が入った。洋館の前に群がる子供たちを制止して中へ踏み込もうとするウルトラ警備隊。その時、彼ら、いやスペル星人が巨大化して正体を現した。スペル星人は自らが開発したスペリウム爆弾の実験で血液が汚染されており、自らの血に変わるものとして地球人の血液を求めていのだ。
 その頃、伸一が佐竹に拉致されていた。アンヌらから佐竹の正体を知らされながらもそれを信じようとしない早苗。伸一を保護しようとするウルトラ警備隊の攻撃に 佐竹も正体を現した。そして駆け付けたウルトラホークによってスペル星人の宇宙船は撃墜され、巨大化した星人もウルトラセブンのアイスラッガーを受けて夕日に散った。
 しかし、早苗は佐竹の愛を信じ、「地球人も他の星の人も同じように信じ合える日が来るまで」このことを忘れまいと語る。そんな早苗の姿にダンはそっとつぶやく。「そうだ、そんな日はもう遠くない。だってM78星雲人である僕がこうして君たちといっしょに戦っているじゃないか」と。
 この話だけでは特に問題もなさそうに思える。だが本放送から時を経て別の所から火の手が上がるのだった。

日本の中心で抗議をさけんだこども
 問題が起こったきっかけは小学館の児童向け雑誌の付録であった。怪獣の写真やデータが記されたカードというごく変哲もない物だったのだが、その中に記載されたスペル星人の「別名」が問題だった。
 ここで「別名」について解説しておく。これは要するにバルタン星人なら宇宙忍者、ゼットンなら宇宙恐竜というアレである。ウルトラセブンでは番組中に怪獣の名前や別名をクレジットしないので、別称は全て(また一部の怪獣名も)放映後に雑誌、書籍向けに付けられたものである。
 そしてそのカードにおいて、スペル星人の別名は「被爆怪獣」と付けられていた。あたかも原水爆実験の影響で怪獣化したと受け取れる(実際それに近い内容なのだが)この表現は軽率な判断だった。
 昭和45年10月、これに対して1中学生少女が抗議を行ったことから、その波紋は大きく広がり、関係団体からの抗議は制作側の円谷プロにまで及んだ。結局円谷プロは自粛という形で第12話をテレビの再放送はもちろん、一切の出版物からも削除し、欠番とする処置を下したのである。さらに本編だけでなく「ウルトラファイト」のスペル星人登場分も欠番とし、新たに撮影した「怪獣死体置場」と差し替えたのだから徹底している。
 自らの作品を封印するという映像制作側として最もつらい決断だった。(と思われる)

演出の価値は
 前述した12話のストーリーの通り、スペル星人は自らの実験の結果,破滅を招いた。被爆=放射線を浴びてしまったのは設定上の事実である。 一方スペル星人のデザインだが、脚本を書いた佐々木守氏は「角があってこれと目から怪光線を出し、背中の羽根で空を飛ぶ」というイメージを考えていたという。名前のスペルは車の「スバル」のもじりであるらしい。
 これに対して演出の実相時昭雄監督は怪獣デザインを担当していた成田亨氏に「真っ白い服にケロイドを付けてくれ」という注文を付けた。ウルトラ怪獣に対する自らのデザインポリシーに相反する注文に対し、成田氏は大したデザイン画も描かずに怪獣造形担当の高山良策氏に実相時監督の要求をそのまま伝えたという。結果、画面に登場したスペル星人は白いのっぺらぼうの様な体に小さな目と口があるだけというデザインとなった。
かようにキャラクターには問題があるものの核開発競争の犠牲の問い掛け、地球人と宇宙人の信頼をテーマにし、美しい映像と音楽に彩られた好編であった。

静止した画像の中で
 では第12話は今となっては絶対見られないのか?そこは蛇の道はヘビ。第12話のビデオは存在するのである。円谷プロがファンに公開・流布の自粛を呼びかける程度に。実は私も大学在学中に「とんでもなく画質が悪いが、12話のビデオが存在する」と聞いたことがある。見ようと思えば見れたのだが、結局情報を聞いただけで見てはいない。しかし,まがりなりにも実相時監督の映像なのだから,きちんとした映像で見たいものだ。(現在持っているLDの解説書に掲載されたスチルはまぎれもなく実相時アングルのそれである。)
 余談であるが、見たという人の中にはセブンが大して強くもないスペル星人をえんえん5分間程度いぢめたという証言もある。又、安永航一郎作「県立地球防衛軍」でバラダキ大佐こと原滝龍子がスペル星人の使った宇宙時計を身に付けていたのは有名な話である。

欠番の後に来るものは
 さて、新たなクレームがついたのか、セブン第12話の二の舞をさけるための自主規制なのか不明であるが、円谷プロは一部怪獣の(公式の)別称を改めている。正確な時期は不明だが昭和末期から平成の初期頃と推定される。
 具体的には
 セブン25話登場、ポール星人「小人宇宙人」→「ミニ宇宙人」
 セブン38話登場、クレージーゴン「気違いロボット」→「ロボット怪獣」
という変更である。 セブン12話については円谷プロに認識の甘さがあったと思うし、できれば欠番として欲しくなかったのが1個人としての本音である。 近年放送・出版界において差別用語の規制あるいは「言葉狩り」が厳しくなり、プッツンした筒井康隆氏が断筆宣言(復活しましたが)する等の騒動が起こったのはご存じの通りである。マンガ、アニメ、家庭用ゲーム、特撮TV番組(も入れておきましょう)では質・量ともに世界一ィィイな現代の日本で過剰な反応といきすぎた自主規制が起こらない様祈りたい。のだが。

参考文献
[1]ウルトラセブンデータファイルCHAPTER3(ウルトラセブンLD VOL.3付録)
[2]ウルトラマン白書第4版、朝日ソノラマ
[3]ウルトラセブン大百科、ケイブンシャ
[4]ウルトラセブンベストブック、竹書房

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付記:ウルトラセブン12話(等)を見る方法
 蛇の道はヘビ、と書いたが最初にここの文章を書いて以降、インターネットを含めてパソコン環境が大幅に変化した。そこで禁断の映像を見る方法を整理してみた。
1.持っている人に見せてもらう
 近くにマニアが居れば手っ取り早い。居なければインターネットの掲示板でお友達を作ってみよう。また、遠距離に居る人でも親しい間柄になれば個人利用目的でコピーしてもらうという方法も可能だ。
2.海外在住者に録画してもらう
 ウルトラセブンという作品は最初から海外放映を意識して製作されています。実際ハワイで放映されたものには子門真人が唄う英語版のオープニング主題歌が使用されているのは有名です。さて、かなりうろ覚えなのですが、海外(米国?)で放送されたウルトラセブンは放映権利が円谷プロ以外に渡っていると聞いています。
 したがって、円谷プロがセブン12話を欠番にしているのは日本国内限りで、海外ではウルトラセブンは(円谷プロの手を離れているので)全49話が放映されているのです(多分)。したがって海外在住の親しい人がおり、その人のところでウルトラセブンが放映されていれば12話を録画してもらい、個人利用目的で送ってもらえば視聴できます。
 ただし、音声が英語吹き替えだったり字幕が入ったりしている可能性が高いので100%オリジナルと同じという保障はありません。
3.インターネットでファイル交換して入手する
 インターネット経由で画像ファイル、動画ファイルを入手できるソフトウエアがある。これを利用してゲットする。もちろん自分のパソコンを持ちインターネットに接続できる環境が整っていることが大前提である。
 ソフトの入手やそのインストール、設定方法などはインターネット上や市販の書籍を使って自分で調べたり、あるいは詳しい友人に尋ねて勉強する様に。なお、管理人はこのファイル交換を行っていませんのでこの件に関する質問には一切お答えしません。
4.インターネット経由で購入する
 インターネットオークションにはセブン12話など、諸般の事情により現在市販されない(できない)映像を記録したビデオやDVDを販売している人がいます。最近はDVD形態での販売もあり、この場合ビデオと違い画質がコピー元以下になる心配はありません(ただし、元々の画像ファイルの画質が悪ければ悪いなりの画像しかコピーされません)。
 どのオークションで売っているのかは自分で探して下さい。また実際の購入はすべて個人責任において行って下さい。売買の際に生じたトラブルについて管理人は一切関知しません。
 なお、3と4の方法は封印され欠番になっている作品といえども著作権を考えると非常に問題がある(<柔らかい表現)事を付け加えておきます。だから蛇の道はヘビってことね。
 2003年10月31日 追加